◆子どものかぜと抗生物質

  

  保育園で熱が上がったので帰りがけに連れてきたという2歳の子を診察しました。その子はもうすぐお兄ちゃんになります。そしてお薬を処方しようとすると、お母さんが「抗生物質はでないのですか。お産が近くしばらく来られないので一週間分ください。」とおっしゃりました。「かぜのほとんどはウィルス性なので抗生物質は効かないのですよ。」と応えましたが、「この子はかぜをこじらせやすく、これまでも中耳炎や肺炎になったことがあるのです。」とのこと。確かにかぜのほとんどはウィルス性でも、保育園に行っている子は鼻やのどに病原性がある菌をふだんからもっていることが多いようです。健康なときはそれらの菌はおとなしくしているのですが、特に低年齢の子でかぜが長引いて粘膜が傷んだり免疫が下がったりすると、病原菌が増えてすぐに細菌性の病態に変化することがありえます。しかしこれははじめから抗生剤を使うことで絶対に防げるというものではないのですし、抗生剤を使わなくてもならないこともあるのです。お医者さんは胸の音やのどの様子、鼓膜の色をみて、「これは抗生物質を使わなくても乗り越えてくれそうだ。」とか「使わないとまずいかな。」とか判断します。またどうしても分からないときは「明日保育園を休んで、もう一度のどや耳を診せてください。」と言う場合もあります。
 抗生物質の乱用をはばかるのは、目の前にいるお子さんのためだけではありません。むしろお子さんがすでに2~3歳になっているのであれば、その後の病状を小まめに診せてくれれば、たかだか中耳炎程度の感染症で致死的病態に進行することはありません。抗生物質を使わなくても少し時間はかかりますが、免疫力だけで治ることもあります。また抗生物質を使い続けて菌が耐性化しても、最終的には小学校に入るころには色々なウィルスに免疫をつけてかぜをひかなくなれば、耐性化した菌も暴れだすこともなくなります。したがって、その子にとってはどちらでも最終的に中耳炎にならなくなるという意味ではかわらないでしょう。しかしそのお子さんの鼻の中にいる菌が耐性化し、つぎの世代のお子さんに住み着きます。1歳以下のお子さんの細菌感染症は時として電撃的に進行し、髄膜炎や敗血症など重症感染症に進展することがあります。そうしたとき我々が使える抗生物質の効果が低下していると、救命することが困難になるのです。
 私たちはひとりひとりの子どもについて年齢や体質を理解し、丁寧に診察した上で、必要最小限の治療を施こすことが一番大切なことと考えます。決して病気を侮ってはいけませんが、あせらないで子どもの治癒力や回復力を見守っていくことが、子どもたち全体のことを考えると非常に大切なことなのです。この子もだいぶ大きくなり、もうすぐお兄ちゃんになるでしょう。次に生まれてくる赤ちゃんもこの子のように病気を乗り越えて、丈夫に元気に育つといいですね。(平成
209月)